「大家さんから突然、退去を求める通知書が届きました。どうすればいいでしょうか!?」
異国の地で生活する日本人赴任者や留学生の方から、時折このような切羽詰まったご相談を受けることがあります。昨日まで平穏に暮らしていたアパートから突然追い出されるかもしれないという恐怖は、計り知れません。
しかし、まずは深呼吸をして落ち着いてください。マサチューセッツ州(MA州)の法律では、大家さんが何の理由もなしに、明日すぐに入居者を追い出すようなことはできません。退去通知が届いた時に真っ先にすべきことは、**「現在のご自身の契約形態(Leaseの種類)」**を確認することです。
今回は、ボストンで20年以上不動産仲介を行ってきたプロの視点から、退去通知への正しい対処法と、日本人が陥りやすい「Tenancy at Will(随意契約)」の罠について解説します。
まずは、2つの契約形態の違いを一覧で確認しましょう。
| 項目 | ① Fixed Term Lease(定期借家契約) | ② Tenancy at Will(随意契約) |
|---|---|---|
| 契約終了日 | 明記されている(例:1年契約) | 明記されていない |
| 中途解約 | 「正当な事由」がない限り原則不可 | 双方いつでも通知のみで解除可能 |
| 必要な通知期間 | 契約書に準ずる | 通常30〜60日前 |
| 陥りやすい罠 | ー | 更新書面を交わさず住み続けると自動移行 |
■ ステップ1:契約形態を確認する(Fixed Term Lease か Tenancy at Will か)
MA州の賃貸契約には、大きく分けて2つの形態があります。どちらで契約しているかによって、大家さんの退去要求が「合法か・違法か」が大きく変わります。
① Fixed Term Lease(定期借家契約) 一般的な賃貸契約です。1年間など「契約開始日と終了日」が明確に記載されています。この契約期間中であれば、大家さんから一方的に中途解約(退去要求)をすることは原則としてできません。もしこの契約期間中に通知が来た場合は、後述する「正当な事由」があるはずです。
② Tenancy at Will(随意契約 / 月極契約) 実は、この契約形態がトラブルの火種になることが非常に多いのです。Tenancy at Willは、契約終了日が記載されていない、いわば「月極駐車場」のような随意契約です。法律上は口頭でも成立しますが、トラブル防止のため書面を交わすのが一般的です。この契約の最大の特徴は、**「双方(大家も入居者も)、事前の通知さえすれば、理由を問わずいつでも契約を解除できる」**という点です。(※家賃を月額前払いしている場合、通常は30日〜60日前の通知で退去が合法的に成立します)
💡豆知識:「Tenancy at Will」は、中世イギリスの封建制度に起源を持つ古い概念 実はこの「Tenancy at Will」という契約形態、アメリカで生まれた新しい概念ではありません。その起源は中世イギリスのコモンロー(判例法)、さらには領主と農民の土地保有関係を定めていた封建制度にまで遡ります。当時、土地の占有は「領主と借主、双方の意思(Will)が合致している限り続く」という、非常に人間関係に依存した柔軟な——同時に不安定な——形の関係でした。
時代が下り、不動産法や借地借家法が整備されるにつれ、多くの州で「解除するにも事前通知が必要」という制定法上のルールが追加され、当初の「即座に打ち切れる」という原則からは変化してきました。マサチューセッツ州で今も使われるこの「Tenancy at Will」という言葉には、何百年も前のイギリス封建社会の土地慣習の名残が今も息づいているのです。歴史ある古い制度だからこそ、現代の感覚では見落としがちな「罠」も生まれやすいと言えるでしょう。
■ 【要注意】気づかぬうちに「Tenancy at Will」になっている罠
「私は1年間のFixed Term Leaseで契約したから大丈夫!」と思っている方も安心はできません。
1年目の契約が満了する際、大家さんと新しい更新契約書(再契約)にサインをしましたか?もし、新しい契約書を交わさずに、そのまま家賃を払い続けて住んでいる場合、MA州の法律では自動的に「Tenancy at Will」へと移行したと見なされる可能性が高いのです。
つまり、2年目以降は大家さんから「1ヶ月後に出て行ってください」という通知が来ても、合法として認められてしまうケースがあるのです。長く住み続けたい場合は、面倒でも必ず「再契約(更新手続き)」を書面で行うことを強くお勧めします。
■ ステップ2:大家が「契約期間中」に正当に退去を要求できるケース
もし現在が「Fixed Term Lease」の契約期間中であるにも関わらず退去通知が来た場合、大家さん側に以下の「正当な事由」があると考えられます。
- 家賃の未払いや遅延(14日間の事前通知): MA州の法律(940 CMR 3.17(6)(a))では、「家賃の遅延が30日以内であれば、大家は遅延損害金(違約金)を請求できない」と定められています。しかし、これはあくまで違約金の話です。家賃の支払いが「1日でも」遅れれば、大家さんは即座に退去を要求する権利を持ちます。 ※プロの鉄則:「大家が設備の修理をしてくれないから、家賃の支払いを止めて抗議しよう」と考える方がいますが、これは非常に危険な行為です。必ず事前に弁護士にご相談ください。
- 契約違反行為や入居者の破産(7日間の事前通知): ペット不可の物件で隠れて飼育していた、騒音トラブルを繰り返したなどの重大な契約違反がある場合、大家さんは7日間の通知で契約解除を申し出ることができます。
- Eminent Domain(土地収用): 政府などの公的機関から、公共事業のために立ち退きを要請された場合です。(※ただし、これには相当な猶予期間があるため、通常の1年契約中に突然追い出されることは稀です)
■ 万が一、退去通知を受け取ってしまったら
上記のルールを確認し、ご自身に全く思い当たる節がない(契約違反も滞納もしていない)場合は、すぐに大家さん、または管理会社へ事実確認を行ってください。
話し合いでも解決せず、大家さんが理不尽な要求を取り下げない場合は、迷わず不動産専門の弁護士にご相談されることをお勧めします。
💡 ボストンの不動産トラブル・契約更新でお悩みの方へ
「今の自分の契約がどうなっているか不安」「大家さんからよく分からない通知が来て困っている」など、言葉の壁や法律の違いによる不動産トラブルは、一人で抱え込むと非常に危険です。
ボストンの賃貸ルールを知り尽くした現役ブローカーが、状況の整理とアドバイスを行います。不安なことがありましたら、ぜひ以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。
免責事項:弊社のスタッフは弁護士ではありません。この記事はマサチューセッツ州における一般的な不動産ルールの解説であり、個別のケースに対する法的なアドバイスを提供するものではありません。具体的な法的トラブルについては、専門の弁護士にご相談ください。

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