※この記事は2026年10月時点で公開されている州の公式情報をもとにした一般的な解説です。法律の個別の適用についての助言ではありません。個別のケースは、弁護士または州の担当機関にご確認ください。
「ブローカーに頼むと手数料がかかるのでは?」「大家さんの物件を紹介してくれる人は、私の味方なの?」
アメリカで部屋探しを始めると、日本の不動産会社とは少し勝手が違うことに戸惑う方が多いようです。その違いの正体は、**「そのブローカーは、誰に雇われているのか」**という一点に集約されます。
この【前編】では、マサチューセッツ州の公式情報(Mass.gov)を軸に、次の順番で整理します。
- ブローカーとは何者か、どんな責任を負っているのか
- 【賃貸】自分で雇うブローカー vs 大家さんのブローカー
家を買う場合の違いは、【後編】で解説します。
1. そもそも「ブローカー」とは?
ブローカーとセールスパーソンの違い
マサチューセッツ州では、手数料や報酬を受け取って他人のために不動産の売買・賃貸の仲介をするには、州の免許が必要です。免許には大きく2種類あります。
| ブローカー(Broker) | セールスパーソン(Salesperson) | |
|---|---|---|
| 仕事の内容 | 売買・賃貸の交渉をまとめ、取引を完了させる | ブローカーとほぼ同じ活動ができるが、交渉の最終的なまとめはできない |
| 預かり金(デポジット等)の管理 | ブローカーが責任を持って管理 | 権限なし(受け取った場合はブローカーに渡す) |
| 独立して事業を営めるか | 可能 | 不可。必ずブローカーの下で、監督を受けて働く |
日常会話で「エージェント」と呼ばれる人の多くは、実はセールスパーソンです。そして、その人を監督し、最終的な責任を負っているのが所属ブローカー(ブローカレッジ)です。
💡 豆知識:「Realtor」は免許の名前ではありません Realtor(リアルター)は、全米不動産協会(NAR)の会員に与えられる名称で、州の免許とは別のものです。免許の有無は、州のサイトで誰でも確認できます(記事の最後にリンクがあります)。
ブローカーが負っている主な責任
州の消費者向けファクトシートなどをもとにまとめると、ブローカーには主に次のような責任があります。
- 免許を有効な状態(Active)に保つこと
- 誰の代理人なのかを、書面で開示すること(売買の場合。賃貸では、手数料の開示書面を提示します)
- 雇い主(クライアント)に不利になる情報を、相手側に伝えないこと(守秘義務)
- 預かり金を別口座(エスクロー口座)で管理すること。自分のお金と混ぜることは違法です
- 受け取ったオファーを、すべて売主(所有者)に伝えること
- 所属するセールスパーソンを監督すること
- 正直・公正に取引を扱うこと(知っている重大な欠陥の開示など)
- 弁護士の利用を妨げないこと。不動産取引で、弁護士を使わないよう勧めることは違法とされています
見落としがちな責任:「雇い主に不利な情報を、相手に漏らさない」
ブローカーの最も大切な責任のひとつが、自分を雇ってくれたクライアントの利益を優先し、クライアントに不利になる情報を相手側に伝えないことです。
州のファクトシートでも、買主側のブローカーは購入に影響しうる情報を秘密にする義務があり、売主側のブローカーも売主に対して守秘義務を負う、と説明されています。
たとえば、次のような情報は、雇い主の交渉力に直結します。
| クライアント | 相手側に伝えてはいけない情報の例 |
|---|---|
| 借り手 | 「すぐにでも部屋が必要で、急いでいる」「予算の上限」「今の住まいの退去期限が迫っている」 |
| 大家さん | 「空室が長引いていて、早く埋めたい」「家賃を下げる余地がある」 |
| 買主 | 「この物件が第一希望で、他は見ていない」「予算の上限」「転勤で急いでいる」 |
| 売主 | 「住み替え先がすでに決まっていて、早く売りたい」「これ以上下げられる価格」 |
だからこそ、自分の代理人ではないブローカーに、急いでいる事情や予算の上限を話しすぎないことが大切です。話した内容が、相手側に伝わる可能性があります。
💡 豆知識:ファシリテーターは別ルール 売買で、どちらの代理人でもない「ファシリテーター」として動く場合は、特別な取り決めがない限り、守秘義務はないとされています。誰がどの立場かを、最初に確認しておきましょう。
また、ファクトシートによれば、州の免許法はブローカーに5,000ドルの保証証券(surety bond)を求めています。さらに、任意で「E&O保険(業務上の過失に備える保険)」に加入しているブローカーもいます。気になる方は、依頼前に確認してみてください。
💡 豆知識:「幽霊が出る物件」は、開示しなければならない? ライセンス取得の講習(Pre-licensing course)などで、よく話題になるテーマです。州法(MGL c.93 §114)は、過去の居住者の健康状態、殺人や自殺があったこと、心霊現象(ゴーストが出る、など)があると見られていることについて、売主やブローカーに自ら開示する義務を課していません。つまり、「幽霊が出るかどうか」を、こちらから説明しなくても、直ちに違法とはなりません。 ただし、例外があります。買主や借り手から質問された場合に、相手をだますような回答をしてはならないとされています。たとえば、知っているのに「そんな話は一切ありません」と断言するのは、避ける必要があります。 また、この規定が対象にしているのは、「そう見られている」という心理的な要素です。雨漏りやカビ、構造上の問題といった物理的な重大な欠陥は別の話で、正直に扱う責任があります。 気になることがある場合は、遠慮なく質問し、回答は必ず記録(メールなど)で残しておきましょう。
2. 【賃貸編】自分で雇うブローカー vs 大家さんのブローカー
まず押さえたい「2025年8月1日」の大きな変更
2025年8月1日から、マサチューセッツ州では賃貸のブローカーフィー(仲介手数料)は「そのブローカーを雇った人」が払うというルールになりました(州の住宅・地域社会開発局:EOHLCのFAQより)。
- 大家さんがブローカーを雇った場合 → 大家さんが支払う
- 借り手が自分でブローカーを雇った場合 → 借り手が支払う
- 自分で雇っていないブローカーのフィーは、借り手が払う必要はありません
これまでボストン周辺では、大家さん側のブローカーが入居者から手数料を取る慣行が広く見られましたが、現在は法律で禁止されています。
2種類のブローカーの違い
| ① 自分で雇うブローカー(借り手側) | ② 大家さんのブローカー(リスティングブローカー) | |
|---|---|---|
| 誰のために働くか | あなたのために、大家さんとの交渉をする | 大家さんのために、募集・内見・契約をする |
| 手数料を払う人 | あなた(金額は開示書面で確認) | 大家さん(あなたは払わない) |
| 紹介できる物件 | 複数の大家さん・建物から、条件に合うものを探せる | 基本的に、その大家さんが依頼した物件 |
| 条件交渉 | あなたの立場で交渉できる | あなたの代理で交渉する立場ではない |
| 提示される書面 | Rental Brokerage Fee Disclosure(手数料の開示書面)の提示が必須。誰に雇われ、誰が払い、いくらかが書かれる | 同じ開示書面の提示が必須(大家さんが払う旨が書かれる) |
| 別途の代理契約書 | 賃貸では、売買のような書面の代理契約を結ばないのが通例 | 同左 |
ポイント:ひとりのブローカーが、大家さんと借り手の両方の代理人になることは認められていません(EOHLC FAQより)。
メリットとデメリット
① 自分で雇うブローカー
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 完全にあなたの立場で動いてくれる | 手数料を自分で負担する |
| 複数の建物や大家さんを比較して探せる | 開示書面の内容(金額、支払い時期)をよく確認する必要がある |
| 日本語など、母国語で相談できる人を選べる | ブローカーによって報酬の額や条件が異なる |
| 家賃・入居日・契約条件などの交渉を任せられる |
② 大家さんのブローカー
| メリット | デメリット |
|---|---|
| あなたは手数料を払わなくてよい(大家さんが負担) | 大家さんの側に立つ人なので、あなたの代わりに交渉する立場ではない |
| 物件や建物の細かい事情を、直接聞きやすい | 紹介できるのは、その大家さんの物件が中心 |
| 申込みから契約までが早い場合がある | あなたが話した内容(予算の上限、急いでいる事情など)が、大家さん側に伝わる可能性がある |
州のファクトシートでも、特に相手側のブローカーに対しては、個人的な情報や財務情報、「急いでいる」といった事情をあまり明かさないよう注意を促しています。交渉で不利になる可能性があるためです。
こんなときは? よくある場面
- ネットの広告に連絡したら、ブローカーが対応してくれた → その人が大家さんに雇われているなら、フィーを払うのは大家さんです。「大家さん側のブローカーですか?」と最初に聞いて大丈夫です。
- 「このブローカー経由でしか内見できません」と言われた → 大家さんが指定のブローカーを使わせること自体は可能ですが、その費用を大家さんが負担している場合に限られます。内見の条件として、借り手に特定のブローカーを雇わせることは認められていません。
- 「管理費」「選考料」「リーシング費用」という名目の請求 → 名称を変えたブローカーフィーも禁止されています。また、フィー相当額を家賃や初月・最終月の家賃に上乗せして回収する形も認められていません。
- 2025年8月1日より前に契約した場合 → 賃貸契約が同日より前に締結済みであれば、旧ルールのもとでフィーが有効となる場合があります。
契約前に確認したい3つのステップ
- 最初に聞く:「あなたは、誰に雇われていますか?(Who hired you?)」
- Rental Brokerage Fee Disclosure(手数料の開示書面)を確認する:ブローカーは、大家さん側でも借り手側でも、この書面を必ず提示しなければなりません。誰に雇われ、誰がフィーを払い、金額がいくらかが書かれています。書面が出てこない場合は、その場でサインや支払いをせず、ブローカーに提示を求めてください
- サインの前に読む:申込書や契約書の内容(申込金の扱い、返金条件など)を確認し、わからない点は質問する。標準書式でも、変更を加えて提出できます
不当な請求を受けた場合は、州司法長官の消費者窓口(617-727-8400)や、州の免許局(Division of Occupational Licensure)への苦情申立てができます。違反した大家さんには請求額の最大3倍の支払いと弁護士費用が、ブローカーには罰金や免許の取り消しなどが科される可能性があるとされています。
プロのまとめ(前編)
- ブローカーは、州の免許を持った専門職で、預かり金の管理や所属エージェントの監督、雇い主への守秘義務など、法律上の責任を負っています。
- 見るべきポイントは、**「その人は、誰に雇われているのか」**です。
- 賃貸では、2025年8月以降、フィーは雇った人が払うルールです。ブローカーは、Rental Brokerage Fee Disclosureを必ず提示します。
- 自分の代理人ではないブローカーには、急いでいる事情や予算の上限を話しすぎないことが大切です。
【後編】では、家を買う場合の「自分で雇うブローカー」と「リスティングブローカー」の違いを解説します。
参考にした公式情報
- Massachusetts law about real estate brokers(Mass.gov)
- Real Estate Brokers and Salespersons consumer fact sheet(Mass.gov/州の不動産ブローカー・セールスパーソン免許局)
- Frequently asked questions about residential rental broker’s fees(Mass.gov/EOHLC)
- 免許の確認:Check an Occupational Board license(Mass.gov)
- 苦情の申立て:File a complaint against an Occupational Board licensee(Mass.gov)
- 関連法令:MGL c.112 §§87PP–87DDD½(不動産ブローカー・セールスパーソン)、254 CMR(免許局規則)
制度は変更される場合があります。最新の内容は、上記の公式サイトでご確認ください。

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